高齢者の「なぜ?」な言動に戸惑う時:認知症と向き合い、地域で支え合うヒント
高齢のご家族を介護されている皆様、日々の生活の中で「なぜ、こんなことを言うのだろう」「どうしてこんな行動をとるのだろう」と、戸惑いや困惑を感じることはございませんか。特に、認知症と診断された、あるいはその傾向が見られる方の言動の変化は、介護する側にとって大きな負担となり、時には「もうどうしたら良いのか分からない」と孤立感を感じる原因にもなり得ます。
「地域つながり広場」では、そうした皆様の心に寄り添い、一人で抱え込まずに地域の中で支え合い、情報交換ができる場を提供することを目指しています。この記事では、高齢者の「なぜ?」と感じる言動の背景にあるものや、具体的な対応のヒント、そして介護する皆様ご自身の心の健康を守るための考え方をご紹介いたします。
高齢者の言動、「なぜ?」の背景にあるもの
認知症に伴う言動の変化は、多くの場合、ご本人の意思や性格が急に変わったわけではありません。脳の機能が変化することで、記憶、理解力、判断力、感情のコントロールなどに影響が出ているためです。ご本人にとっては、その言動こそが「今、この瞬間の現実」であり、決してわざと困らせようとしているわけではないことを理解することが、対応の第一歩となります。
脳の変化がもたらす言動の例
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同じ話を繰り返す: 新しいことを覚えられない、あるいは古い記憶が強く残っているために、過去の出来事や特定の話題を繰り返し話すことがあります。ご本人にとっては、毎回初めて話すような感覚かもしれません。
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物を盗られたと主張する(物盗られ妄想): 物をどこに置いたか忘れてしまう記憶障害から、それが誰かに盗られたと思い込んでしまうことがあります。不安や恐怖が背景にあることが多く、ご本人は真剣に困惑しています。
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夕方になると落ち着きがなくなる(夕暮れ症候群・せん妄): 一日の終わり頃になると、不安や混乱が増し、そわそわしたり、意味のない行動を繰り返したりすることがあります。これは、周囲が薄暗くなることや、一日の疲れが影響しているとも考えられています。
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感情的になる、怒りっぽくなる: 自分の思いをうまく伝えられない、あるいは周囲の状況を理解できないことによる苛立ち、不安、混乱が、感情の爆発という形で表れることがあります。
これらの言動は、認知症の中核症状や周辺症状(BPSD: 行動・心理症状)として見られるものです。決して、ご家族の介護の仕方が悪いわけではありません。
具体的な言動への対応のヒント
それでは、具体的な言動に対し、私たちはどのように接すれば良いのでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。
1. 同じ話を繰り返す場合
- まずは耳を傾ける: ご本人の話に根気強く耳を傾け、「そうでしたか」「大変でしたね」などと相槌を打つことから始めてみましょう。話の内容ではなく、「話したい」という気持ちに寄り添うことが大切です。
- 話題をそらす工夫: 「お昼ご飯は何になさいますか」「少しお散歩に行きませんか」など、ご本人が興味を持ちそうな別の話題に自然に誘導するのも一つの方法です。
- 記録を残す: 話された内容や回数をメモしておくと、パターンが見えてくることがあります。また、介護者自身の気持ちの整理にも役立ちます。
2. 物を盗られたと主張する場合(物盗られ妄想)
- 共感と安心の提供: 「大変でしたね。ご心配ですね」と、まずはご本人の気持ちに寄り添いましょう。否定せず、「一緒に探してみましょうか」と声かけをし、探し物が見つかったら「見つかってよかったですね」と安心させてあげてください。
- 安全な場所の確保: 大切なものは、ご本人が安心してしまえる場所や、他の方が触れない場所に保管する工夫も必要です。
3. 夕方になると落ち着きがなくなる場合(夕暮れ症候群・せん妄)
- 環境の調整: 薄暗い時間帯には、部屋を明るくしたり、好きな音楽をかけたりするなど、安心できる環境づくりを心がけましょう。
- ルーティンの導入: 毎日同じ時間に夕食をとり、入浴するなどの決まった日課を設けることで、ご本人が安心感を得られることがあります。
- 穏やかな声かけ: 「大丈夫ですよ」「私がそばにいますから」といった、安心させる言葉を繰り返し伝えることも有効です。
4. 感情的になる、攻撃的になる場合
- 冷静な対応: ご本人の感情に飲まれず、まずは一歩引いて冷静になることを意識しましょう。介護者自身が感情的になると、状況は悪化しがちです。
- 原因の探求: 何がきっかけで怒りや混乱が生じたのか、可能な範囲で考えてみましょう。体調不良、排泄の不快感、痛みなど、ご本人が言葉にできない不調が背景にあることも少なくありません。
- 気分転換の提案: 好きなテレビ番組を観る、お気に入りの飲み物を飲む、手遊びをするなど、ご本人が気分転換できるような活動を提案してみましょう。
介護する側の心と体を守るために
ご家族の言動の変化に対応することは、介護する皆様にとって計り知れないストレスとなります。ご自身の心と体を守ることも、介護を長く続けていく上で非常に重要なことです。
- 完璧を目指さない: 「もっとうまく対応できたはず」と自分を責める必要はありません。できる範囲で、できることをすれば十分です。
- 自分の感情を認める: 「疲れた」「つらい」「イライラする」といった感情は自然なものです。無理に抑え込まず、ご自身の気持ちを認め、受け入れてあげてください。
- 休息を意識的にとる: 短時間でも良いので、介護から離れてご自身だけの時間を持つことが大切です。気分転換になる趣味の時間や、静かに過ごす時間など、意識的に休息の機会を作りましょう。
一人で抱え込まず、地域でつながる大切さ
「地域つながり広場」が最も伝えたいことは、介護は一人で抱え込むものではないということです。ご家族の言動に戸惑いや悩みを感じた時は、ぜひ周りの人や地域のサポートを頼ってみてください。
地域の相談窓口やサービスを活用する
- 地域包括支援センター: 高齢者の生活全般に関する総合相談窓口です。介護保険サービス利用の相談から、健康や医療、福祉に関する情報提供まで、幅広くサポートしてくれます。
- 認知症カフェや家族会: 認知症の方とそのご家族が気軽に集まり、情報交換や交流ができる場です。同じ悩みを抱える方と話すことで、共感や安心感を得られるでしょう。
- 介護サービス: デイサービスやショートステイ、訪問介護など、介護サービスを上手に活用することで、ご家族だけでなく介護者の負担も軽減できます。専門職の視点からのアドバイスも得られるでしょう。
- 当サイト「地域つながり広場」: オンライン上での交流や情報交換の場も、ぜひご活用ください。
ご家族の言動の変化への対応は、介護者にとって終わりなき学びと挑戦の連続かもしれません。しかし、その根底にあるのは、ご家族への深い愛情と、何とか力になりたいという優しい気持ちです。
一人で悩み続ける必要はありません。地域には、理解し、支えてくれる人々がいます。困った時に手を差し伸べてくれる専門家や、同じ経験を持つ仲間たちがいます。
「地域つながり広場」を通じて、皆様が地域とのつながりを感じ、少しでも心が軽くなるきっかけを見つけていただけることを心から願っております。